ODYSSEY Geopolitics & Business

2026/02/07 17:00  | 戦略論 |  コメント(0)

新航路がもたらす地政学的転換


今週も色々と国際政治が動いていますが、地政学・戦略関連のトピックでいえば、やはり触れなければならないのは、米ロの間で唯一存在していた核軍縮条約である「新START」(新戦略兵器削減条約:New Strategic Arms Reduction Treaty)が2月5日の時点で失効したことです。

中国、規制後に対日輸出許可 レアアース調達で依存脱却警戒(2/6 共同通信)

これは冷戦時代の最後に米ソ間で締結された第一次STARTから開始され、2010年に「新START」として継続されてきたものですが、要するに、保有する核兵器の中でも「戦略核」と呼ばれる、最も威力の高い弾頭の数を互いに制限しましょう、という取り決めです。

失効したばかりの「新START」は、戦略核弾頭の上限を「1550発」とすることや、運搬手段(ミサイル)を「800基」にして互いに検査・監視するシステムを作るなど、超大国同士での紳士協定のようなもので、無法図な核の拡大を制御しようという試みとして機能していたわけです。

ところが、上記のリンク先の記事にもあるように、近年最も急速に核戦力を増強しているのは中国です。アメリカのトランプ政権は中国も含めた新たな枠組みをつくろうとしましたが、まだ数が少ない(約600発)とはいえ、米ロ並みに増やしたい中国が核軍縮に参加するインセンティブはほとんどなく、結果として流れてしまったということです。

結果として言えるのは、米・ロ・中という三つの「大国」が、核の分野でも互いに競い合うような構図がまた生まれてきたという話です。今後の国際社会は、この三大国での影響圏争いになっていくことを予測するような動きになっているという点で注目です。

その他としては、あまり触れたくないのですが、いわゆる「エプスタイン(エプスティーン)文書」の公開が、日本を除く先進国で大騒ぎになっています。しかも各国での反応がそれぞれ違う点が興味深いところです。

第一に、アメリカでは、司法省によって公開された300万点とも伝えられている文書において、トランプ大統領の名前がどれだけ書き込まれているのか、という点に最も注目が集まっています。

How Trump Appears in the Epstein Files(2/1 The New York Times)

第二に、欧州では富裕層だけでなく、王族がエプスティーンと関係を持っていたことが判明し、とりわけイギリス王室では以前から問題になっている、現国王の弟であるアンドリュー(元)王子がいよいよ未成年売春の疑惑を否定できなくなってきたことが挙げられます。英王室の権威の失墜にまで及ぶのではという議論も起きています。

Shamed by the Epstein scandal, riven by infighting: have the UK royals ever been in a bigger mess than this?(2/4 The Guardian)

また、英国では労働党政権の重鎮であり、現スターマー労働党政権では駐米大使を務めていた、ピーター・マンデルソン男爵が、未成年売春の疑いはないものの、エプスティーンに英政府内の機微な情報を流しており、その見返りに金銭を受け取っていたという疑惑が文書の中にあったEメールのやりとりから判明。貴族院議員を辞職しただけなく、労働党からも党員を辞職し、さらにはロンドン警察が捜査開始という大スキャンダルに発展しています。

エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も(2/4 ニューズウィーク)

このスキャンダルを受けて、そもそも以前から問題のあったマンデルソンを駐米大使という要職につけた、スターマー首相の判断力への疑問が高まり、いよいよ辞任かという騒ぎになっています。

第三は、英米圏とそれ以外のメディアでの、エプスティーンが何者だったのかという議論の違いです。

欧州では、エプスティーンはロシアのエージェント(もしくはアセット)だったという意見が大手メディアを中心に多く見られます。一方、それ以外の国々ではイスラエルの元首相であるエフード・バラック氏との親密なメールのやり取りから「モサド(同国の諜報機関)のエージェントだったのではないか」という疑惑が議論されています。

米司法省がまだ300万点以上あるとされる文書の残りを公開しておらず、今後も公開するつもりもないようなので真相は闇の中です。しかし当のアメリカよりもその他の国々ですでに政治問題に発展している点は実に興味深いところです。

おかげでグリーンランドやベネズエラの問題が一瞬で吹き飛びました。

さて、今回取り上げるのは、地政学において革命的な事件となる潜在性を持つ「北極海の氷」について、地政学的な観点から考えてみたいと思います。

※ここからはメルマガでの解説になります。目次は以下の通りです。

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新航路がもたらす地政学的転換
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▼北極海の氷が消える?
▼地政学リスクの典型例
▼地政学の前提が変わる

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近況報告
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読んでいて気が重くなるエプスティーン文書ですが、一つだけ我々が学べるポジティブなことがあることに気が付きました。

それは、富裕層や実力者たちと密接なコネクションを持っていたエプスティーンが、来たEメールに対して、短文であっても、とにかく即座(10分から1時間以内)に返信していることです(以下は一例)。
https://x.com/affiliate4851/status/2019575254767837322?s=20

もちろん早く返信すればいいというわけでもないのですが、少なくともあれだけのコネを持った人間が世間をわたり歩くには、誰からの突然の連絡でも即座に反応できる能力が重要だったのではないかと思うのです。

考えてみれば、私がお世話になっているルトワックという戦略家も、毎回クイック・レスポンスです。仕事ができる(シゴデキ)人間は違います。

メールを受け取ってから、どのように返信しようか思い悩んでグダグダしてしまう経験はみなさんもおありだと思いますが、「何はともあれ即返信」は私も実践したいと思いました。

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