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2025/10/25 15:00  | 戦略論 |  コメント(0)

戦争の原因?


今週の戦略関連のニュースで注目すべきは、いよいよトランプ大統領とプーチン大統領の関係が本格的に悪化したことでしょうか。

トランプ氏、プーチン氏との首脳会談中止 交渉停滞に不満(10/23 ロイター)

主に石油関連の分野でロシアに経済制裁を加えたとされるトランプ大統領ですが、今のところまだプーチン大統領に対して決定的な悪口を言っていないのが印象的です。

そういえば本メルマガでも「トランプは80年代に当時のKGBと関係ができて、それからロシアの悪口は決して言わなくなった」という話に触れたことがあります(以下のリンク参照)。

「ロシアは本当に強いのか」(3/22)

これはクレイグ・アンガーというジャーナリストが「トランプはロシアのアセット(スパイ=エージェントではない)である」とした話の論拠となっております。

Donald Trump spying allegations: more likely useful idiot than Putin’s agent(Aberystwyth University)

いずれにせよロシアとの関係を決定的に悪くしようとしないトランプが、どこまでロシアに停戦を迫れるのか、最近噂されているロシア側の経済状況の悪化も含めて、今後の注目点となりそうです。

それと戦略には全く関係ないですが、イギリスで大変なスキャンダルが話題です。エプスタイン事件に関連して、その被害者だった女性(今年に入って自殺)の手記が出版され、大ベストセラーになっています。

Nobody’s Girl by Virginia Roberts Giuffre review – a devastating exposé of power, corruption and abuse(10/20 The Guardian)

この新刊の中には、彼女を性的に搾取していたという疑惑を否定していた英国王室のアンドリュー王子が、実は三回に渡って関係を強要していたという話や、なんとイスラエルのエフード・バラック元首相にも強姦されたとされる記述もあって、国際的な大ニュースとなっております。

幸いなことに(?)この本では、トランプ大統領は「エプスタイン文書を開示してくれるかもしれない」という期待のもとにポジティブに描かれているのですが、ともかくもこれによって超エリートが身寄りのない若い女性を搾取しまくっているというナラティブが英米圏の大衆感情を大きく刺激することになりそうです。

英国王室もこのような王子を放任していたという点で説明責任を問われることに(逮捕・起訴まで?)なりそうです。さっそく元警護担当者が、同王子の素行の悪さを動画サイトなどで暴露しています。

【動画】Buckingham Palace ex-security tells all on Prince Andrew’s “abusive” behaviour(60 Minutes Australia)

さて、今回は少し学問的な話をしたいと思います。

私が大学院でクラスを担当して教えていることはご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今期のクラスで個人的に印象に残ったのが「戦争の原因」について議論した先週の授業でした。

私が教えている戦略研究のコースでも、この戦争の原因に関する議論は実に奥深いもので、実施すると毎回議論が盛り上がるのですが、今回はとりわけ参加している学生の質も高かったおかげか、時間も忘れて大いに盛り上がりました。そこで今回はこの「戦争の原因」をめぐる考察をお伝えします。

※ここからはメルマガでの解説になります。目次は以下の通りです。

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戦争の原因?
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▼戦争の原因に関する議論
▼マルクス主義による説明
▼マルクス主義的戦争観の限界

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近況報告
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先週のことですが、映画の試写会というものに初めて招待されたので、渋谷のホテル街の真ん中にある映画館に観に行ってきました。

『火の華』(10/31公開)

物語を大雑把に説明しますと、南スーダンのPKOで活動していた元自衛官の想像を絶する経験とその後の宿命を、実際の報道に着想を得てオリジナルストーリーで描いたドラマでしょうか。サイトの概略によれば、

2016年、PKO(国連平和維持活動)のため南スーダンに派遣された自衛官・島田東介は、現地傭兵との銃撃戦に巻き込まれる。同期で親友の古川裕司が凶弾に倒れ、島田はやむを得ず少年兵を射殺。さらに退却の混乱のなかで隊長の伊藤忠典が行方不明になるが、この前代未聞の「戦闘」は政府によって隠蔽されてしまう。

2年後の新潟。悪夢に悩まされる島田は闇の武器ビジネスに加担しながら、花火工場で働き始める。親方の藤井与一や職人仲間たち、与一の娘・昭子に支えられ、心の傷を少しずつ癒していく島田だったが、そんな彼に過去の闇が迫り……。

というものです。

なんだか壮大なスケールの話ですが、メインとなるテーマは、自衛隊の隊員たちが現場の事件で被ったトラウマ(PTSD)に対してどのように対処するか、という私も関心を持っている重いテーマでして、そのメッセージ性は尖っていて良いと感じました。

ところが映画としてのクォリティーは・・・・・まあご察しください。

上映後にはトークショーが行われたのですが、なぜか関係のない映画評論家もやっている井筒和幸監督が出てきて、言いたい放題の悪口だけ言って終わりました。後味が悪かったです(苦笑)。

せっかくご招待いただいたのですが、制作陣の偏った政治性が悪目立ちして、楽しむことができず、残念でした。

韓国なら同じ題材でもっと面白そうなものをつくれそうな気がしたのも悔しいところです。

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好評発売中の書籍
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『世界最強の地政学』文春新書
『新しい戦争の時代の戦略的思考』飛鳥新社
『サクッとわかる ビジネス教養 新地政学』新星出版社、改訂版(再び増刷決定!)
『やさしくわかるエネルギー地政学』小野﨑 正樹、技術評論社
『クラウゼヴィッツ: 『戦争論』の思想』マイケル・ハワード著、勁草書房
『地政学:地理と戦略』コリン・グレイ&ジェフリー・スローン編著、五月書房新社
『戦争の未来』ローレンス・フリードマン著、中央公論新社
『インド太平洋戦略の地政学』ローリー・メドカーフ著、芙蓉書房出版、
『戦争はなくせるか』クリストファー・コーカー著、勁草書房
『デンジャー・ゾーン』マイケル・ベックリー&ハル・ブランズ著、飛鳥新社
『スパイと嘘』アレックス・ジョスキ著、飛鳥新社
『アジア・ファースト』エルブリッジ・コルビー著、文春新書(第三刷決定!)
『認知戦:悪意のSNS戦略』イタイ・ヨナト著、文春新書(★最新刊★)

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