ODYSSEY Geopolitics & Business

2026/06/20 19:00  | 戦略論 |  コメント(0)

チョークポイントとルートの話


今週も色々と国際政治が動いていますが、なんといっても注目は、米イラン間での戦争を終結させるための暫定的な合意が実現したことですよね。

アメリカとイランが暫定合意、レバノンとイスラエルにとってどんな意味があるのか(6/17 BBC)

ところがその後に判明した、14項目にわたる「合意の覚書」(The memorandum of understanding: MOU)の内容が驚きでした。

情報BOX:米・イラン合意の覚書、14項目の全文(6/18 ロイター)

ぱっと見ただけでも、アメリカの戦略面で、非常に問題のありそうなものでした。

たとえば第1項では、「イスラエルのレバノンでの軍事作戦停止」が謳われています。これは、イスラエルの対ヒズボラ行動に対するイランの「拒否権」として機能することがわかります。

日本にとって関係のあるのは第4項および第5項。ここではアメリカ海軍による封鎖の解除とイラン側の商船航行確保が取り決められていますが、イランが海峡の管理権を主張し、将来的な恐喝の道具にされるリスクが残っていることがわかります。

第6項から第11項にかけても、3000億ドル(日本円で約48兆!)の復興基金や制裁の解除、凍結資産の解放が盛り込まれています。これらはイランの「悪質な活動」を助長する資金源になり得ます。

全体として、この覚書はイランの体制を立て直すための「ライフライン」を提供しているように見えます。核問題やミサイル開発、テロ支援といった、本質的な問題に対するアメリカ側の交渉力を弱める結果になると思われます。

今回の覚書(MOU)は、オバマ政権が2015年に提携した「イラン核合意」(包括的行動計画:JCPOA)と比較されることが多いですが、戦略的に見れば、今回の合意の方がかなり「悪質」で、リスクを抱えたものと考えられます。アメリカがこれまで戦場(Operation Epic Fury等)で築いてきた強力な交渉レバレッジを、交渉のテーブルでみすみす手放してしまったと言えます。

端的に言えば、トランプ政権は交渉において大幅に譲歩し、実質的にアメリカの「負け」を確定させてしまったと考えています。

まだ米軍がペルシャ湾付近から動いておらず、ホルムズ海峡が「完全に開放された」という状態からはほど遠い点も気になります。

米中央軍、イラン船舶を対象とした海上封鎖措置の解除を発表…戦闘終結の覚書署名で(6/19 読売新聞)

上記記事によれば、まだ警戒監視の任務が引き続いているとのこと。相変わらず同海峡の不安定なままの状態は続いており、事態はまだまだ余談を許さないと言えるでしょう。

さて今回は、久しぶりに正面から「地政学」の話題を扱います。

英エコノミスト誌は私も愛読する週刊誌ですが、ここにホルムズ海峡の地政学的な意義を根本から捉え直すような、実に素晴らしい記事がありました。それをきっかけとしていくつか議論してみたいと思います。

※ここからはメルマガでの解説になります。目次は以下の通りです。

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チョークポイントとルートの話
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▼ホルムズ海峡の重要性
▼チョークポイントは伊達じゃない
▼3人の地政学者の議論
▼「囲い込み」とルート
▼ルートと世界平和

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近況報告
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秋に出す本の準備をかねて、私が専門とする「戦略研究」という分野の「古典」の勉強会を、有志の方々と行うことになりました。

やり始めてあらためて思ったのですが、「古典」や「主要文献」と呼ばれるものは、いまでも続く普遍的な問題を論じており、まったく色褪せない魅力を持っているという点です。

一例として、バーナード・ブロティという学者の「絶対兵器」(the Absolute Weapon)という、核兵器のことを最初に論じた1946年の本を読み返してみると、現在の日本の防衛政策関連の文書に出てくる「抑止」のような概念が、この頃から必死で考えられていたことを知ることができて感慨深いのです。

時代を超えた戦略論文が色褪せないのは、結局のところは、同じ人間が同じようなジレンマに直面しているからです。それでも80年前に書かれたものが、現代にもそっくりそのまま移植しても新鮮というのは、それを発見できるだけでも知的刺激をおぼえるものです。

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